ハコガメは30年以上生きることもめずらしくない、とても長寿な生きものです。それだけに、飼い始めたときには想像していなかった事情──引っ越し、家族構成の変化、体調の問題など──で「このまま飼い続けられないかもしれない」と悩む場面が出てくることもあります。
そんなとき、いちばんやってはいけないのが「近くの池や山に放す」ことです。この記事では、なぜ放してはいけないのかという理由と、手放す前に見直せること、そしてどうしても難しい場合の譲渡先の探し方までを整理します。
結論
飼えなくなったハコガメを野外に放すことは、法律のうえでも、生態系にとっても、カメ自身にとっても避けるべき行為です。まずは飼育の負担を減らす工夫や周囲の助けを検討し、それでも難しい場合は、家族・知人への譲渡、里親募集、爬虫類を扱うショップや自治体への相談といった順で、責任をもって次の飼い主につなぐ方法を探しましょう。
なぜ野外に放してはいけないのか
法律に触れるおそれがある
動物愛護管理法では、飼っている動物をみだりに捨てる「遺棄」は犯罪とされており、爬虫類も対象に含まれます。罰則も定められており、1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金が科される可能性があるとされています(2025年6月の刑法改正にともない、従来の「懲役」は「拘禁刑」という名称に一本化されました)。「自然に返してあげた」というつもりでも、法律上は遺棄にあたるおそれがあるのです。
また同じ法律では、飼い主が動物をその命を終えるまで適切に飼う「終生飼養」に努めることも求められています。ペットのカメは、一度人の手で飼われた時点で「野生に戻す」という選択肢がない生きものだと考えておきましょう。
生態系への影響が大きい
ハコガメの多くは海外原産で、日本の野外に本来いない生きものです。放された個体が生き延びると、在来の生きものと餌や生息場所を取り合ったり、持ち込んだ病原体を広げたりするおそれが指摘されています。カメの仲間では、ミシシッピアカミミガメ(ミドリガメ)が野外への放出を法律で禁止される「条件付特定外来生物」に指定されたことが広く知られており、「飼いきれなくなったら放す」ことの深刻さは社会的にも大きな問題になっています。
カメ自身が生きていけない
飼育下で育ったハコガメは、餌の探し方も冬の越し方も、その土地の環境に合っていません。日本の冬の寒さや外敵、交通事故などにさらされ、多くは長く生きられないと考えられています。「自然のほうが幸せ」というのは、残念ながら人間側の思い込みであることがほとんどです。
手放す前に見直せること
「もう飼えない」と感じたときも、少し立ち止まって、負担を減らす方法がないか考えてみる価値はあります。
- お世話の負担を軽くする:掃除しやすいレイアウトへの変更や、サーモスタットによる温度管理の自動化などで、日々の手間はかなり減らせます。
- 一時的な事情なら預かり先を探す:入院や長期出張など期間が決まっている事情なら、家族・知人やペットホテルなどに一時的に預かってもらう方法があります。くわしくは旅行・帰省時の留守番対策も参考にしてみてください。
- 費用が課題なら見直しポイントを探す:電気代や消耗品のコストは、機器や管理方法の見直しで抑えられる場合があります。飼育費用の目安もあわせてどうぞ。
そのうえで、どうしても飼い続けることが難しいと判断した場合は、次の飼い主を責任をもって探すことになります。
譲渡先の探し方
一般的に、次のような順で検討するとスムーズだと考えられます。
1. 家族・親戚・知人にあたる
カメの性格や飼育環境をよく知る人に引き継げるのが、カメにとっても新しい飼い主にとっても負担の少ない形です。飼育用品一式もセットで譲ると、環境の変化を最小限にできます。
2. 里親募集サービスやコミュニティを利用する
ペットの里親募集サイトには爬虫類のカテゴリがあり、カメの里親を探している人も一定数います。掲載する際は、種類・年齢(推定でも可)・性別・健康状態・飼育環境などをできるだけ詳しく書き、写真を添えると、ミスマッチを防ぎやすくなります。受け渡しの際は、これまでの餌の内容や通院歴などの情報も引き継ぎましょう。
3. 爬虫類を扱うショップや専門店に相談する
店舗によっては、引き取りや委託販売の相談に応じてくれる場合があります。対応の可否や条件は店舗ごとに異なるため、事前に電話などで確認してみてください。
4. 自治体や動物愛護センターに相談する
どうしても引き取り手が見つからない場合は、お住まいの自治体の動物愛護担当窓口に相談する方法もあります。爬虫類の受け入れ体制は自治体によって差がありますが、地域の団体や相談先を紹介してもらえることもあります。
引き渡しまでにやっておきたい準備
譲渡先を探しはじめてから実際の引き渡しまでには、時間がかかることも少なくありません。その間にできる準備を進めておくと、新しい飼い主への引き継ぎがぐっとスムーズになります。
- 健康状態をメモにまとめる:体重や甲羅・皮膚の様子、食欲などを簡単に記録しておくと、そのまま引き継ぎ資料になります。日々の観察ポイントは健康チェックの習慣が参考になります。
- 気になる症状があれば先に受診しておく:食欲不振や甲羅の異常などがある場合は、譲渡前に爬虫類を診てもらえる動物病院で一度診てもらっておくと、次の飼い主も安心して迎えられます。
- 飼育用品を手入れしておく:ケージや水入れを洗って乾かしておき、使い方の簡単なメモを添えて一式で渡すと、カメにとっても環境の変化を最小限にできます。
譲渡するときに気をつけたいこと
種類によっては、事前に確認しておきたい背景があります。多くのハコガメは、国内での譲渡そのものに特別な手続きが求められるわけではありません。ワシントン条約(CITES)は輸出入など国際取引を規制する枠組みで、いったん合法的に国内に入った個体を人から人へ譲る行為を直接しばるものではないためです。国内の譲渡に登録の手続きが関わってくるのは、種の保存法で「国際希少野生動植物種」に指定された一部の種(おおむねワシントン条約の附属書Iにあたる種)に限られるとされています。
ただし、種類によっては別の観点での注意が必要です。たとえばセマルハコガメの場合、日本の八重山諸島の個体群(ヤエヤマセマルハコガメ)は国指定天然記念物で、そもそも捕獲・飼育の対象にできません。国内でペットとして飼育されているのは海外由来の個体で、その入手が正規のルートによるものかどうかが大切になります。このように種類ごとに背景が異なるため、自分のカメの種類にどんな決まりが関わるのかを、譲渡の前に一度確認しておくと安心です(セマルハコガメについてはセマルハコガメの飼い方でも触れています)。なお、こうした制度は改正されることもあるため、判断に迷う場合は環境省や自治体の最新情報を調べておくとより確実です。天然記念物やワシントン条約、登録票の扱いなど、ハコガメに関わる法律・ルールの全体像は法律とルールのまとめで詳しく整理しています。
また、相手が本当に終生飼育できるかを見きわめることも大切です。ハコガメの寿命の長さや必要な設備を伝えたうえで、それでも迎えたいという人に託すのが、カメにとって幸せな引き継ぎになります。
これから飼う人・迎えたばかりの人へ
この記事にたどり着いた方の中には、「これからハコガメを飼おうか迷っている」という方もいるかもしれません。ハコガメは適切に飼えば数十年の付き合いになる生きものです。お迎えの前に、寿命と大きさや飼育費用、お迎え先の選び方を確認し、「最後まで飼いきれるか」を家族と話し合っておくことが、こうした悩みを防ぐいちばんの方法です。
まとめ
飼えなくなったハコガメを野外に放すことは、法律・生態系・カメ自身のどの面から見ても選んではいけない道です。まずは飼育の負担を減らす工夫や一時的な預け先を検討し、それでも難しければ、知人への譲渡、里親募集、ショップや自治体への相談という形で、責任をもって次の飼い主につなぎましょう。
長寿なハコガメとの暮らしには、思いがけない転機がつきものです。いざというときの選択肢を知っておくことも、終生飼育に向けた大切な備えのひとつだと思います。
よくある質問
飼えなくなったカメを川や公園に放してもいいですか?
いけません。飼っている動物を捨てる行為は動物愛護管理法の「遺棄」にあたるおそれがあり、罰則も定められています。生態系への影響も大きく、カメ自身も生きていけない可能性が高いため、必ず譲渡先を探してください。
動物園や水族館は引き取ってくれますか?
一般的に、動物園や水族館が個人のペットを引き取ることはほとんどないとされています。まずは知人への譲渡や里親募集、爬虫類を扱うショップ、自治体の動物愛護窓口への相談を検討しましょう。
譲渡のときに何を引き継げばいいですか?
飼育用品一式に加えて、ふだんの餌の内容、給餌の頻度、通院歴や健康上の注意点などの情報を伝えると、新しい環境への移行がスムーズになります。種類によっては法規制の手続きが必要な場合もあるため事前に確認してください。
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